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ドーナツホール、または心に空いた(存在を証明できない)穴

最近よく聴いている。所謂ボカロ曲というやつだ。

HACHIこと米津玄師の有名なタイトル。YouTubeにアップロードされた動画の視聴回数は一千万回を超えるし、ニコ動やその他アップロードされたもの、二次創作を含めると結構な数になると思う。

もともと、俺はVOCALOIDのあの独特な抑揚のない声、しかしそれでいて時々垣間見える不気味なまでの人間味が好きじゃなかった。

確か小学生の時に初めて聞いた曲だったのが、裏表ラバーズだったと思う。

今でこそ好きな曲だが、当時の自分には単に甲高い声でわけのわからない日本語を並べているだけだと思っていた。曲を書いた人には本当に申し訳ないが。

そういった第一印象があったせいで、VOCALOIDにはいいイメージはなかった。あと、VOCALOIDの曲を聴くのがオタクだという決めつけとか先入観とか。

そうやって最近までずっとVOCALOIDの曲は意味の分からない理解不能な音楽、という意識があって聴いていなかった。

そんな奴がどうして急に考え方を百八十度変えて聴くようになったのか、答えは簡単。

好きな人の好きなものを好きになりたかったからだ。

 

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この記事を書く気になったのも、その彼女との別れも同時に記しておこうと思ったから。この曲について書くにあたって、そのことは決して外せないこと。

あいつは、歌手になることを夢見ていたんだと思う。思うって言うか、たぶん8割方そうだ。

好き好んで、ニコニコ動画VOCALOIDのカバーを上げて、時々やるツイキャスでもアコースティックギターで簡単なライブのようなものをしていた。

人気はなかったけれど、俺はそんな一生懸命な彼女を応援していたし、どこかで関わることができたら手伝ってあげたいな、って思っていた。

毎回、とは言えないが彼女の上げる動画はチェックしていたし。

いつかは、自分が書いた曲を歌ってもらいたかった。

あいつが好きだったから、自分も興味を持ち始めたんだ。

もっと、あいつのことを知りたかった。そのためには、あいつの嫌いなもの、好きなもの、すべてを理解しなきゃダメだと感じていた。それでも、俺はその中で一番大事な、あいつの気持ちに気付けていなかった。

話を戻そう。

歌い手になることを夢見て、ある程度の周期で歌を上げていた彼女。俺はそいつが歌う曲に興味を持ち始めた。

自分でも、最近のJ-POPやらには詳しくない方だと思う。

親の影響で知っている曲といえば80年代の曲ばかり。中島みゆきの「わかれうた」、久保田早紀の「異邦人」。

それでも、一応吹奏楽部員だったから、J-POP吹奏楽曲に対しての偏った知識はあった。

当時聞いていたのは主に洋ロック。The White Stripsのseven naiton armyや、FUN.のwe are youngなど。特にFUN.の曲は初めて聞いた時から大好きだった。

最近の邦楽はどうも好きになれなかった。言葉の意味が心にそのまま入ってくるから嫌いだった。知った風な口で歌ってんじゃーねよ、と。

80年代の曲に慣れ親しんだのは、その時はまだ自分が青かったせいだ。言葉の意味を深く理解せずに曲の響きを感じてそれが自分に合うようだったら好きだった。

そんな奴が、急にVOCALOIDの曲と知らずに曲を聴いたとする。彼女はカバーしていただけだったので、それが誰の曲だったかはわからなかったのだ。

歌うことはそれほどうまくなかった。平均的か、それ以下か。だけど、自分はそれ以上に歌詞が伝える無力感や世の中に対する絶望、とにかく歌詞が伝える言葉の重さが気になった。

しかも、それを直接的な表現をするのではなくて、婉曲した表現に変えて歌詞にしていると気づいた。

すごい。

自分がいま求めているのはこんな曲だった。

衝撃的な出会いを果たしたのだった。

それから、夢中になった。昔とは技術が進歩したのか、越えられなかった声における不気味の谷を克服したのだろう。感情がないと思っていた歌声も進化し、それに伴って人間味を帯びることが不気味ではなくなっている。

歌詞も曲も、一流の作詞家や作曲家が編纂するものと変わらないクオリティで、自分を虜にしていった。

そんな時に出会った曲がドーナツホールだった。

初めてその曲を聞いた時にはもう、俺と彼女との関係は東西冷戦時のソ連とアメリカのように冷え切っていたのかもしれないが、俺は相変わらず彼女の気持ちは変わらないって思っていた。

今思えば、実に愚かだ。

彼女は受験生なので、もう曲を投稿していなかった。

メッセージを送っても、返事はなし。そのメッセージを無視されているっていうことは薄々気付いていたけれど、それを認めるのが怖かった、あるいは彼女は受験生だから忙しくて仕方がないって自分の中で納得していた。

ずっとあいつは、俺だけを見つめてくれているって信じていた。

だから、別れの時は耐え難い苦しみを味わったんだ。

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詳しく説明するのは省く、かなりややこしい話だし、何より、思い出すこともいやだから。

終始泣いていたように思う。俺が。

あいつの顔を見た瞬間、嬉しさとか切なさよりも最初に悲しさで涙が出てきた。

これで会うのが、もう最後だと決めていた。

変な話だがこの時に会ったのが今年初めてだった。

もうその時点でおかしい。

最後まで俺は、もしかしたらあいつは別れを惜しんで自分の気持ちを正直に話してくれるんじゃないかって都合よく考えていた。もしかしたらやり直せるかもしれないっていう一縷の望みに縋り付いて言葉を吐き出した。

 

結局、駄目だった。

 

最後に、抱きしめさせてもらった。

これが最後だ、って言って、半ば強引に彼女を引き寄せた。ずっとこうしていたかった。別れたくなかった。お前を愛している。愛が消えたわけじゃないんだ。

 

言葉を並べたところで、空を掴むような虚しさが溢れてくるだけだった。

数十秒間そうやって抱き締めていたけれど、これ以上の進展は望めなかった。長い時間かけたところで、二人の間に出来た溝は埋まらない。心に空いた穴も然り。

 

彼女の体を離したときに、もう終わった、って思った。

 

バイバイ。幸せになれよ、お前のことを愛していたよ。

 

彼女は微笑んで見送ってくれた。先輩も、元気で。

 

そういったかどうかはわからない。何も言ってなかったかもしれない。ましてや、微笑んでいなかったかもしれない。俺は最後まで都合のいいように物事を考えていた。

 

心の底からあいつが幸せになることを祈れなかった。いや、あいつが幸せになること自体は構わない、問題は幸せにさせるのが俺じゃないってことだ。

 

きっと高校生になって、あいつは今まで俺とできなかった恋人ごっこを、ほかの人とやるだろう。その繰り返しの中で、将来を共にできる人を見つけていくだろう。

俺は、そんな彼女に、なんて言葉をかけていいかわからなかった。

 

 

バイバイもう永遠に逢えないね、なぜかそんな気がしてるんだどうしようもないまま

 

 

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それ以来俺はすべてのことが嫌になった。生きる意味がないと思った。でも死ぬのはめんどくさくて、その数日前に会った定期演奏会で貰ったお菓子で数日間食いつないでいた。このお菓子がなくなったら餓死するだろうとも思っていた。気がふさいだからか、一気に体調を崩した。

疲れがたまっていたのか、それとも。

どちらにせよ心の傷も身体的な疲労も癒えないまま自室の布団の上で寝転がり一日一日長い時間を潰していた。

幸いだったのが、通信手段があったということである。

携帯を使って後輩に慰められ、同級生に悩みを打ち明け。それでも、心に空いた穴は埋まることはなかったし、これから先この穴が埋まるとは考えていない。

布団の中でずっと聴いていたのがドーナツホールだった。

今の心境に一番合っていると思った。

 

 

「ドーナツの穴みたいにさ、穴を穴だけ切り取れないように、あなたが本当にあること決して証明できはしないんだな」

 

 

歌詞の一説にこんな部分がある。

ドーナツの穴は確かに開いているけれど、その穴の存在を証明することはできない。だって、そこには何もないから。

ドーナツの穴は、ドーナツに付属することで穴としての意味を持ち、ドーナツのない場所でドーナツの穴を証明しようとしてもできない。

そういう意味だろうか。

 

 

「この胸に空いた穴が今、あなたを確かめるただ一つの証明、それでも僕はむなしくて、心が千切れそうなんだ どうしようもないまま」

 

 

こんな歌詞もある。

ドーナツの穴のようにあいてしまった俺の心情。それは、埋まるべきものではないかもしれない。

埋まらない理由はちゃんとある。

きっと、君がここにいたことを忘れないための空間なんだ。

 

これから、俺みたいな人間はきっといくつもの穴をあけていくだろう。きっとあいつも少なからず心に失ったものはあるだろう。そう考えることで自分を落ち着かさせてみる。

だけど、この数日間で学べたのは、心に穴が開いてしまってもそれを紛らわさせてくれる友達、知り合いはまだいるっていうこと。

絶望の淵に立ってなお。

目まぐるしく過ぎていくものすごく退屈で陰湿な数日間だったが、まあ今のうちに別れを経験しておいてよかっただろうって思える。

楽観的だが。

そう思うことで気を確かに持っているから。

 

この胸に空いた穴をせいぜい忘れないようにするよ。

 

 

   

 

 

 

 

    最後に思い出した その小さな言葉 静かに呼吸を合わせ 目を見開いた

               あなたの名前は

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーナツホール 作詞・作曲 ハチ

 
 
いつからこんなに大きな思い出せない記憶があったか
どうにも憶えてないのを ひとつ確かに憶えてるんだな
もう一回何回やったって思い出すのはその顔だ
それでもあなたがなんだか思い出せないままでいるんだな

 

環状線は地球儀を巡り巡って朝日を追うのに
レールの要らない僕らは望み好んで夜を追うんだな
もう一回何万回やって思い出すのはその顔だ
瞼に乗った淡い雨 聞こえないまま死んだ暗い声

 

何も知らないままでいるのが
あなたを傷つけてはしないか
それで今も眠れないのを
あなたが知れば笑うだろうか

 

簡単な感情ばっか数えていたら
あなたがくれた体温まで 忘れてしまった
バイバイもう永遠に会えないね
何故かそんな気がするんだ そう思えてしまったんだ
上手く笑えないんだ どうしようもないまんま

 

ドーナツの穴みたいにさ 穴を穴だけ切り取れないように
あなたが本当にあること 決して証明できはしないんだな
もう一回何回やったって思い出すのはその顔だ
今夜も毛布とベッドの隙間に体を挟み込んでは

 

死なない想いがあるとするなら
それで僕らは安心なのか
過ぎたことは望まないから
確かに埋まる形をくれよ

 

失った感情ばっか数えていたら
あなたがくれた声もいつか 忘れてしまった
バイバイもう永遠に会えないね
何故かそんな気がするんだ そう思えてしまったんだ
涙が出るんだ どうしようもないまんま

 

この胸に空いた穴が今
あなたを確かめるただ一つの証明
それでも僕は虚しくて
心が千切れそうだ どうしようもないまんま

 

簡単な感情ばっか数えていたら
あなたがくれた体温まで 忘れてしまった
バイバイもう永遠に会えないね

 

最後に思い出した その小さな言葉
静かに呼吸を合わせ 目を見開いた
目を見開いた 目を見開いた
あなたの名前は

 

出典:

初音ミク Wiki - ドーナツホール

www.youtube.com